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性別変更の手術が違憲は正しい!?性同一性障害の定義や歴史

性別変更の違憲判決と性同一性障害の歴史
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令和5年に性同一性障害の性別変更に関する手術に関連する不妊化要件は違憲であるという判決が出ました。

現在、この手術を含めた性別適合手術を受けなければ、戸籍の性別が変更ができません。

しかし、違憲判決が出たことで今後は性別適合手術が不要になり、手術要件は全て撤廃される可能性があります。

ここでは、性別適合手術が違憲判決について、違憲に当たるのかという観点から、性同一性障害や特例法の意味や歴史を調べてみました。

性別適合手術の内容を見るとギョッとしますが、性同一性障害や特例法の歴史を見てみると、性別適合手術や今回の違憲判決は違った見え方ができます。

歴史といってもあまり深掘りせずにまとめましたが、1万文字と長文になりました。

結論は最初の項目でお伝えしています。

また、違憲判決後に性別適合手術なしで性別変更した前例が既にあるため、それも紹介しています。

強制?性別適合手術は手術を望む性同一性障害者が対象

違憲判決が出ましたが、性同一性障害の定義や特例法を見ると、手術を強制してる法律ではないということです。

また、性別という定義をみても、手術が条件になっているのは決して強制ではないのがわかります。

手術は強制していない

「性別変更の手術の強制は人権侵害である」

という訴えに対し、

「一律で手術を要求することは合理性や必要性を欠く」

とのことで、性別適合手術に関して違判判決が出ました。

また、望まないのに手術を義務付けるのは、身体への侵襲と位置付けて、これは憲法13条に違反しているとのこと。

※憲法13条「意に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害」

手術が強制されているなら、確かに問題かもしれません。

国際的に性別変更の条件である不妊化要件は、2014年にWHOが人権侵害との見解を示し、2017年に欧州人権裁判所が欧州人権条約に違反する旨の判決を出しているくらいです。

しかし、この件に関して性同一性障害の特例法の定義などを見ると、どうやら性別適合手術が強制されているというわけではないと受け取れます。

というのも、今やトランスジェンダーという言葉が認知されていて、トランスジェンダーの性別変更と報道される場合もありますが、性同一性障害=トランスジェンダーではないからです。

  • 性同一性障害・・身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者
  • トランスジェンダー(TG)・・身体と心の性別が不一致である人の総称
  • トランスセクシュアル(TS)・・外科手術(性別適合手術)を望み手術でしか解消できない人
  • トランスセクシュアル(TV)・・外見や服装で心の性別に適合させる人

※1

トランスジェンダー(TG)は性同一性障害も含まれますが、トランスセクシュアル(TS)とトランズヴェスタイト(TV)の中間的な意味があります。

特例法に該当する性同一性障害は上記の定義があるため、身体を他の性別に適合させる意思がないトランスジェンダーに適用されているものではありません。

そうなると、性同一性障害のための特例法の手術要件について、

「手術が強制されている」
「意に反する身体への浸襲」

という受けとり方や違憲判決が果たして正しいのか、という疑問が残ります。

結婚や性別変更のために性別適合手術を無理して受ける方もいるようですね。

国際的な流れに乗ると手術要件撤廃は必須?

今は国際的に性同一性障害の扱いがガラッと変わりつつあります。

違憲判決の根拠にも「社会の変化や理解」が挙げられています。

社会的理解の根拠として、LGBT理解増進法の施行や日本の相当数の自治体で差別禁止の条例が制定されたこと、相当数の国で手術要件撤廃の動きなどです。

性別変更できる国をみると、確かに手術要件撤廃の国が増えています。

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また、本当に理解が深まっているのかは疑問ですが、国際的な大きな変化もあります。

例えば、性別変更に手術要件がない国があったり、性同一性障害という名称が性別違和や性別不合になり、性同一性障害とは診断基準も変わっています。

「この国際的な変化(流れ)が正しいのか?」という疑問もありますが、日本でも性同一性障害の名称がなくなれば、それに適用されている現在の特例法は遅かれ早かれ変更の必要性が出てきそうです。

違憲判決を受け、すでに法務省が現在の特例法の改正の検討を始めることが明らかになっています。

性同一性障害の中には、身体的に他の性別を望んでも持病などでその治療ができない方もいます。

たとえ違憲判決が出ていなくても、その方達に対する救済策は検討されるべきかと思うのですが、違憲判決によりその必要性はなくなったということでしょうか。

性別の意味や定義

性という意味はSEX(性別)やジェンダーがあります。

性同一性障害の特例法は、性別変更の条件を見てもSEXを指していることがわかります。

そういう意味でも性別変更に性別適合手術が必要なことはごく自然です。

性別変更に「生殖機能の除去(性別適合手術)」の必要がなくなりますが、本来の性別(SEX)の意味や定義を見てみましょう。

WHOの性別(SEX)とGenderの定義

  • SEX・・男性であるか女性であるかを定義付ける生物学的・生理的特徴を指す
  • Gender・・特定の社会が男性及び女性にふさわしいと考える社会的に構築された役割・態度・行動・属性を指す

SEXは男か女か生物学的な性差で生涯変更はなく、男女の生物学的な大きな違いは生殖機能です。

Genderは一般的に生物学的な性差(SEX)に付加され、男らしさ・女らしさなど社会的文化的に形成された役割や考え方です。

ほとんどがジェンダーという社会生活上の性別は身体の性別(SEX)と一致しますが、一致せずに違和感を感じるトランスジェンダーや、性分化疾患の方もいます。

性分化疾患は、生物学的な性差(染色体や性ホルモンなど)が生まれながらにして男女の区別があいまいで統一されていない状態です。

性同一性障害の特例法は、生殖機能の除去(内性器)や外観近似(外性器)が性別変更の条件となっており、SEXによる性別を意味しているのがわかります。

しかし、生殖機能の除去という性別変更の条件がなくなることで、本来の男女の性別の決定的な違いである生物学的な性差を失くすことになります。

ジェンダーフリーやジェンダーレスという言葉がありますが、これは生物学的(SEX)と社会的文化的な性差のなくそうという考えです。

  • ジェンダーフリー
    社会的文化的な性差の区別をなくす
  • ジェンダーレス
    生物学的性別の区別をなくす

国際的に性別の概念が変わってきているとしても、生物学的な性差を無視した性別変更は本当に問題がないのでしょうか。

少なくとも国民の理解が得られているようには感じず、トランスジェンダーの間でも意見が分かれているようです。

性別変更に性別適合手術は違憲の判決になった流れ

戸籍の性別変更の条件は5つあり、その中の「不妊化要件」「外観近似要件」に対して、令和5年10月25日に「不妊化要件」のみ違憲との判決が出ました。

不妊化要件に対して違憲判決が出たものの、現段階では性別適合手術を受けずに性別変更はできません。

今回の裁判はどのような内容なのか、経緯などを見ていきましょう。

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性別変更と手術要件に関する訴訟の経過

25日の判決で違憲となる前に、いくつかの性別適合手術に関する訴訟があります。

  • 平成31年1月
    最高裁第2小法廷が性同一性障害の特例法「不妊化要件」を合憲と判断
  • 令和2年5月・9月 
    1審の岡山家裁と2審の広島高裁岡山支部で性別変更が認められず、その後最高裁に特別抗告
  • 令和4年12月
    最高裁が大法廷での審理を決定
  • 令和5年10月11日
    静岡家裁浜松支部が生殖要件を違憲と判断し、別の申立人の性別変更を認める
  • 令和5年10月25日
    大法廷が生殖能力要件を違憲とする判断

訴えを起こしている申立人は戸籍を男性に変更したいFTMの方とMTFの方がいます。

いずれも「身体的負担や金銭的負担があり手術を受けたくない」という方で、「性別変更に手術を強制しているとして人権侵害である」と訴えています。

平成31年の判決は、2016年に戸籍を男性に変更したいFTMの方の訴えですが、不妊化手術は合憲と判断されています。

令和2年~令和5年の申立人は戸籍を女性に変更したいMTFの方です。

この訴えは、令和2年に「生殖能力をなくす手術要件は社会的混乱を避ける配慮に基づく」とのことで、1審も2審も合憲との判断を示しました。

判決では不妊化要件は合憲なのですが、4名中2名の裁判官は「違憲の疑いが生じている」との補足意見がありました。

その後、令和4年に裁判官15名の全員が参加する大法廷の審理を決定し、今回(令和5年10月25日)「不妊化要件は違憲」との判決が出ています。

25日の違憲の判決が出る前に、別の申立人(FTM)は性別変更が認められています。

静岡家裁浜松支部は、手術は体の危険や負担を伴う手術を強いるのは「個人の尊重」に反するとの判断です。

手術要件がない海外の動向や、LGBT理解増進法の施行により、特例法の施行時と比べて配慮の必要性が相当小さくなっているとのことです。

この司法判断は下級審への拘束力はありません。

不妊化の手術要件が違憲になった

令和5年10月25日の判決で一部の性別適合手術は「違憲」となりました。

これは、戸籍の性別変更の条件にある4号要件「生殖機能を永続的に欠く状態・生殖腺がない」が該当します。

この判決によって、一部の性別適合手術(生殖機能の除去)は不要となります。

男性から女性になるMTFの性別適合手術は精巣摘出、女性から男性になるFTMの性別適合手術は子宮卵巣の全摘出が該当します。

これまではこの手術が必須ですが、25日の違憲判決により不要となります。

後述していますが、違憲判決がでたものの法改正はまだですが、既に性別適合手術なしで許可されている事例が出ています。

外観の近似要件は審理は続行する

性別適合手術は5号要件もあり、「外観の近似要件」については審理を高裁に差し戻しとなりました。

なので、今回(25日)の戸籍を女性に変更したい申立人(MTF)の性別変更は認められていません。

「外観の近似要件」は、男性に戸籍変更するFTMの方なら、昔と違い今は性器の手術が不要で基本的に性別変更ができます。

ホルモン注射によって「外観が近似」するという考えがあるためです。

違憲判決が出たことで、今後は戸籍を男性に変更したいFTMの方はホルモン注射をしていれば、性別変更が可能になります。

しかし、男性から女性に戸籍変更する場合は、外性器の形成手術を受けないとその条件を満たせず性別変更ができません。

「外観の近似要件」についてはまだ審理が続くため、手術をしなくても性別変更ができるようになるのかはわかりません。

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いつから?日本の性別適合手術(性転換)と特例法の歴史

日本での性別適合手術や性別変更に関する特例法についてまとめてみました。

違憲判決により特例法が悪く見えますが、歴史を見ると特例法は性同一性障害者の救済措置だったのがうかがえます。

日本初の性転換手術は1951年

1951年に日本初の男性から女性への性転換手術が行われました。

まず、1950年に陰茎癌という手術の名目で、竹内篁一郎氏によって手術が行われました。

翌年の1951年に、日本医科大学付属病院で石川正臣氏(産婦人科学会の権威)による日本初の造膣手術が行われています。

※2

1970年代には海外で性転換手術したことで有名なカルーセル麻紀さんなど、「性転換女性」がショービジネスで活躍するようになりました。

カルーセル麻紀さんは1972年にモロッコで性転換手術を受けており、性転換手術を確立したフランス人医師がモロッコに在住していたためです。

ブルーボーイ事件

ブルーボーイ事件とは、1969年に優生保護法(現在の母体保護法)違反で産婦人科医が有罪となった事件です。

この産婦人科医は3人の男娼(だんしょう)の求めに応じ、今でいう性別適合手術(睾丸摘出・陰茎切除・造膣手術)を行いました。

当時は性転換手術や性別適合手術という言葉はなく、男娼とは女装で男性や女性を相手にしたり、男性として男性や女性を相手にしている方を指す言葉です。

男娼から依頼を受けたブルーボーイ事件の産婦人科医(被告人)は性別適合手術を行い、他にも同じ手術を受けた人がいます。

当時、性転換手術に関する法律はなかったため、優生保護法第28条に準拠し、この産婦人科医は執行猶予3年、罰金40万円の判決を受けました。

※優生保護法第28条「何人も、この法律の規定による場合の外、故なく、生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行ってはならない」

また、この判決は性転換手術を全面的に禁止したり否定したものではなく、正当な医療として認めています。

当時すでにアメリカ(ジョンズ・ホプキンス大学)では性転換手術に着手しており、その性転換医療のガイドラインを引用し、しかるべきステップを踏んでいれば正当な医療行為と言えるとのことでした。

有罪となった産婦人科医は手順を踏まず記録も残していなかったため、医療行為としては問題があったのです。

当時の日本では詳細な判決内容あまり知られず、「性転換手術=違法」という誤解が広まりました。

その結果、日本での性同一性障害に対する治療は「ブルーボーイ事件」があってから、タブー視されるようになりました。

※3

手術が禁止されているわけではなかったため、海外で合法的に性転換手術を受けたり、日本でブルーボーイ事件以降はタブーとされる状況下でも性転換手術を受けることができました。

日本ではヤミ医者と誹られながらも、患者のために性転換手術をしていた有名な医師として和田耕治先生がいます。

※4

日本初の公式な性別適合手術は1998年

日本初の公の医療として性別適合手術を行ったのは、埼玉医科大学の形成外科医原科孝雄先生です。

それまでに性転換手術は行われていますが、正当な医療として行ったのは1998年です。

原科先生はマイクロサージェリーという、手術用の顕微鏡を用いた非常に微細な外科手術を専門としています。

当時、交通事故で失った男性の陰茎形成を再建し、その後に子供ができたことがメディアで大きく報道されました。

1992年にそれを知った女性から男性を希望するFTM患者がペニスの形成を希望して来院し、原科先生が性転換手術を始めたきっかけとなりました。

その後、当時は公に出ていなかった虎井まさ衛さんと連絡を取ったり、1994年にはオランダのGID学会に参加することができたようです。

そして、FTM患者に会ってから3年後の1995年5月には、埼玉医科大学に「性転換治療の臨床的研究」として、2名の女性から男性の性転換を行うことを申請し、メディアの注目を集めました。

その後の流れは以下です。

  • 1996年7月
    埼玉医科大学倫理委員会は条件付きで「外科的性転換術」の実施を認める答申を発表
  • 1997年5月
    日本精神科学会の性同一性障害に関する特別委員会から性同一性障害に関する答申と提言を発表
    「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第1版)」を策定
  • 1998年10月
    性同一性障害の治療として国内初の性転換手術が行われた

このように、埼玉医科大学の倫理委員会にかけて1997年にガイドラインを作り、それに従った手術ということで治療としての性転換手術を行いました。

国内初の正式な治療として行った性転換手術のその第1例目は、奇しくも1992年に来院したFTMの患者だったそうです。

※当時は性別適合手術という言葉はありません

2003年に特例法成立で性別変更が可能になる

日本初の性転換手術により、1990年代には社会的に性転換手術が認知されるようになります。

そして、性転換手術を受けた人の社会的な扱いや問題点(性別変更)が浮上し、「手術をした性同一性障害者の性別変更を認めないのは人権問題では?」という風潮が広がりました。

特例法ができるまでに性別変更ができた事例がありますが、大多数は却下されています。

女性から男性になった虎井まさ衛さんは、1989年にアメリカで米国で性転換手術を受けています。

虎井さんは2001年に埼玉医科大学で正式な医療として性別適合手術を終えた知人ら6名と、戸籍の性別訂正を求める申し立てましたが最高裁で棄却されています。

棄却された後、性別変更について国会に立法を要請し、与党を中心に性同一性障害で性転換手術を受けた人を特例として性別変更ができる法律を作る動きが出ました。

そして、医師や研究者、虎井さんを含めた当事者団体も協力して制定されたのが、「性同一性障碍者の性別の取り扱いの特例に関する法理」=「特例法」です。

特例法とは、手術を受けて社会的に望みの性別で安定して暮らしている性同一性障害者にとって、性別が変更できないのは大きな問題となるため、それを解消しようというものです。

虎井さんは2004年7月に特例法が施行されたのと同時に性別変更を申し立て、戸籍を女性から男性に変更することができました。

特例法がない・法改正前でも戸籍の性別変更ができた例

日本では特例法が成立する前に、すでに戸籍変更ができた事例が稀ですがありました。

そして違憲判決が出たものの特例法の法改正前でも、手術をせずに性別変更が認められた例があります。

そのことについても少し触れておきます。

1980年に戸籍を女性に訂正

例えば、1980年に布川敏という戸籍が男性の方は、戸籍の性別(続柄)を長男から長女へ訂正が認められています。

この方は1974年にアメリカで性転換症の診断に基づき、性転換手術(造膣手術)を受けました。

少なくとも、1980年頃までは性転換症の診断で性転換手術を受けた人が戸籍法113条によって戸籍の性別訂正(続柄)ができたようです。

※2

その後、性別は染色体で決まるという考えになり、性別訂正(変更)が認められなくなりました。

1979年名古屋高裁(家月33巻9号61頁)の「性染色体は正常男性型である」ということから、次男から長女への訂正を却下した判決が最初のようです。

※5

違憲判決前に手術なしで3名のFTMが性別変更

違憲判決が出る前の法改正前の特例法がある現在でも、性別適合手術を受けずに性別が変更できた事例があります。

これに関して、GID学会の研究大会で3月に発表しています。

※6

戸籍の性別変更の条件「生殖機能を永続的に欠く状態・生殖腺がない」という不妊化要件があります。

女性から男性に戸籍変更したい50代のFTMの方で、閉経を迎えて生殖機能が失われたという理由です。

20年から22年の間に性別適合手術を受けずに性別変更を申し立て、3名中2名が性別変更を認められました。

棄却された理由は「閉経していても卵巣や子宮が残っているため、生殖機能に関する要件を満たしていない」などです。

棄却されたFTMの方は、転居した居住地で性別変更の申立てが認められています。

最初に認められた2名もその後に認められた1名もその理由は示されていません。

この件について、専門家からは「公平性の問題点がある」との声が出ています。

違憲判決後に性別変更が許可されたFTM

>>「手術なしでも性別変更を」トランスジェンダーの性別変更を認める 岡山家裁津山支部

2023年12月に健康リスクなどを理由に、臼井氏は手術を受けずに12月に2度目の戸籍を男性への性別変更の申立てを行いました。

岡山家裁津山支部は「医学的にみて合理的なものとは言えず、憲法に違反する」として、特例法の「生殖機能をなくす規定を無効」とし許可しました。

ちなみに臼井氏はXジェンダーであるということです。

2023年1月13日にX(旧Twitter)にて、「胸オペしないほうがXジェンダーらしい。だってFでもMでもないのに、どちらにもなる必要ない。Xだから(体女子だから)胸があるのを隠さないといけないとは思わない。案外周りも驚かない。」との投稿があります。

男性へ性別を変更しても支障はないということでしょうか。

Xジェンダーは日本独自の用語であり、医学用語ではありません。
海外ではノンバイナリーやジェンダークィアという言葉を使っています。
使用者によって意味が異なり、統一された定義を持ちません。
基本的には「男女の性別を持たない、どちらでもない、どちらでもある」という意味があります。

臼井氏の判決では生殖機能をなくす規定を無効とのことで、「特例法全体が無効となるものではない」としています。

2023年に違憲判決が出たとはいえ特例法の法改正はまだですが、今回のケースのように性別適合手術をしなくても許可される可能性がある状態です。

例えばある病院では最高裁の違憲判決が出たことで、不妊化手術(生殖機能の除去)を受けていなくても、戸籍の性別変更に挑戦したい方に性別変更用の診断書を書いてくれます。

診断書作成はホルモン治療をしているなどの条件があり、2024年2月8日時点で既に複数名が性別変更を許可されています。

法改正前でも、今後このような前例が増えていくでしょう。

脱病理化になる性同一性障害の病名と歴史

性同一性障害は医療モデルから人権モデルに変わりつつあります。

「性別変更は手術をしないといけない」ということが、人権問題として取り扱われるようになり、不妊化要件にあたる性別適合手に対して違憲判決も出ました。

性同一性障害の歴史を見ると、国際的にどんどん脱病理化が加速しているのがわかります。

この流れの良し悪しや適正がどうかは別ですが、そういった流れだけを見れば、違憲判決が出るのは別におかしなものではないかもしれません。

性同一性障害(病名)の歴史

性同一性障害という病名が使われるようになったのは1978年からです。

日本の精神疾患に用いられているICDやDSMというのがあります。

  • ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)
    WHOが作成している国際疾病分類で国際的に統一した基準で定められている
    正式名称は疾病及び関連保健問題の国際統計分類
  • DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder)
    アメリカ精神医学会による疾病分類
    正式名称は精神障害の診断と統計の手引き

性同一性障害という病名は、1978年のICDー9(アメリカ精神医学会)、1980年のDSM-Ⅲ(国際疾病分類)にて、精神疾患の診断名として公式に使われるようになりました。

日本でガイドラインに従って診断や治療を進める場合は、日本精神神経学会が定めた「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」をもとに行われます。

日本のガイドラインは第4版まであり、ICD10やDSM-Ⅳ-TR(2000年)を参考にしています。

このガイドラインはあくまでもで医療者に対する治療指針なので、患者に強制するものではありません。

日本精神神経学会のガイドラインは、治療は精神科領域の治療と身体的治療(ホルモン療法や外科手術)で構成され、身体的治療は強制ではなく自己決定することができます。

ICDやDSMの性同一性障害の定義

性同一性障害の特例法の制定に参考にされたのは、1992年のICD-10と1994年のDSM-Ⅳです。

DSM-Ⅳへの改定を機に疾患概念が「性転換症」から「性同一性障害」に統一されています。

性別移行治療に誘導してしまうことが問題視されたためです。

日本精神神経学会がガイドラインの参考にしている、DSM-Ⅳ-TR・ICD-10・特例法の性同一性障害の定義や診断基準(要件)は以下の通りです。

DSM-Ⅳ-TR(2000年)

  • 反対の性に対する強く持続的な同一感
  • 自分の性に対する持続的な不快感・その性の役割の不快感
  • 1次2次性徴から解放されたい
    (身体的移行を要求する)

ICD-10(F64.0)の性同一性障害(性転換症)の定義

  • 体を自分が望む性別にできるだけ一致させるために手術やホルモン治療を受けることを望む

特例法2条による性同一性障害の定義

  • 生物学的性別と心の不一致の持続的確信
  • 身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意志を有する者

日本精神神経学会の性同一性障害の診断基準

  • 自らの性別に対する不快感・嫌悪感
    第一次・第二次性徴から解放されたい・間違った性別に生まれたと確信している
  • 反対の性別に対する強く持続的な同一感
    でき得る限り反対の性別の身体的特徴を得たいとの願望を持つ

※7※8※9※10

これらを見ると、性同一性障害の定義や診断基準が「反対の性別への身体的な移行願望」があります。

特例法も同様なので、性別変更の条件に手術要件があるのは自然でしょう。

性同一性障害の病名に変化(脱病理化)

性同一性障害の扱いは大きく変わり始め、2013年に改訂されたDSM-5では、性同一性障害という病名ではなく性別違和に変更されました。

さらに2019年にICD-11では性別不合(仮名)となっており、精神疾患の分類から外れて脱病理化となりました。

DSM-5は精神疾患の分類ですが、障害という言葉が消えて性別違和とやや病理性の低い名称になり、ICD-11は精神疾患の分類から外れますが、全体のリストには入っているため、医療としてケアを受けることができます。

ICD-11の性別不合もDSM-5の性別違和も、その診断基準や概念に従来の性同一性障害(性転換症)の定義「身体的に他の性別に適合や移行を望む」というのはありません。

主な違いは以下の通りです。

  • ICD-10・DSM-Ⅳ(TR)
    反対の性への「身体的移行願望」がある
  • ICD-11・DSM-5
    「割り当てられた性との不一致」を重要視
    身体治療を含まない人や性別二元論ではなく多様性が含まれる

※11

例えばDSM-5の性別違和は、体験・表出する性(ジェンダー)と割り当てられた性との間に著しい不一致が6か月以上続く(小児期であれば2年)が定義です。

「不一致」が重要視され、性別違和も性別不合も性同一性障害ではなくなることで、診断がそこまで複雑ではありません。

ICDー11は2022年から発効ですが、日本精神神経学会のガイドラインはまだ未対応なので、現在のガイドラインはICDー10が適用されています。

そのため、日本の精神医学会のガイドラインに従って治療を進める場合は、まだ性別不合の診断書は出せないようです。

診断名が複数ありますが、日本で発行されている診断書は、性同一性障害・性別違和・性転換症・性別不合の記載があります。

性同一性障害を含め性別違和や性別不合の診断書を即日で書いている病院がありますが、これは日本のガイドラインに沿わない場合です。

医師が日本のガイドラインに沿わなくても、ICD-10やICD-11やDSM-5などの診断基準に則っていれば、診断書は書けるということでしょう。

手術要件は完全撤廃へ?日本の性別変更の行方

今後の日本は性別適合手術をしなくても性別変更が可能になると予測されます。

日本でも手術要件撤廃の動きは何年も前からすでにあり、冒頭で紹介した2016年(平成31年)の戸籍を男性に変更したいFTMの訴訟でもそれがよくわかります。

最高裁まで争った結果、平成31年1月に不妊化手術は合憲とされていますが、補足意見に「社会の認識の変化を考えると違憲の疑いがある」との指摘がありました。

この時点で社会の変化に応じて手術要件を撤廃するような流れがあり、実際に令和5年の不妊化手術の違憲判決に影響を与えています。

今回の違憲判決(令和5年10月25日)では、外観近似要件について、裁判官3人が違憲とし合憲は0人です。

(15人中3人の裁判官が違憲だと指摘しており合憲の意見は0人)

外観近似要件も違憲判決が出る可能性が十分あります。

この事実だけを見れば、性同一性障害の治療をせずに性別変更ができる時代が来るかもしれません。

体は男性でも女性に、または体は女性でも男性になることができます。

そうなれば性別(SEX)の意味がなく、そもそも性別変更する必要があるのかという風に感じます。

重大な別の問題が起こる可能性も否定できません。

性同一性障害の当事者の方はどう感じているのでしょう。

性別変更に性別適合手術は違憲!性同一性障害の歴史と扱いのまとめ

性別変更の手術要件が違憲判決になり、それが正しいのかという観点から歴史や定義をまとめてみました。

特例法がない時代でも性別が訂正できた時代があったのはビックリでした。

そして、特例法の性同一性障害の定義や、国際的な性同一性障害の扱いや診断基準の変化など、知らないことだらけで勉強になりました。

違憲判決になったのは「生殖機能の排除(不妊化)」なので、もう一つの外観近似要件はまだ判決が出ていません。

今の流れを見るといずれ手術要件が撤廃されそうな予感ですが、今後の動向を注視したいと思ます。

参照元
※1>>性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律|e-GOV法令検索
※2>>「LGBTと法律 性別の変更について考える」三橋順子(明治大学非常勤講師:性社会文化史)
※3>>性転換手術と刑法に関する一考察(稲田 朗子)高知大学経済学会
※4>>ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語2019/2/4和田 耕治(著) 深町 公美子(著)
※5性同一性障害と戸籍訂正-特例法「5要件」の再検討を中心に-
※6>>手術受けずとも性別変更 女性から男性へ 裁判官により分かれる判断
※7>>性同一性障害(GID)に関する心理学的研究の近年の動向(山根 望 名島 潤慈)
※8>>ICD-10 Version:2019
※9Psychiatry.org-What is Gender Dysphoria?
※10>>性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版改)
※11>>日本健康相談活動学会誌 特別報告 多様化する健康課題~性別違和感を持つ子供たち~治療者の立場から(ちあきクリニック松永千秋)

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