不動産の相続をするということは、不動産の登記を被相続人(亡くなった人)のものから相続する人に名義変更する(相続登記)ということです。
相続登記をする際には、不動産の謄本に記載されている人物と被相続人が同一人物であることを証明する必要があります。
そのため、不動産の謄本に記載されている所有者の住所と氏名が一致する公的な証明書類を用意しなければなりません。
この時に必要なのが「戸籍の附票」もしくは「住民票」です。
戸籍の附票と住民票の役割は似ていますが、同じ附票でも確認できる情報の範囲が違います。
相続登記で戸籍の附票と住民票のどちらが必要なのか、迷うこともあると思います。
ここでは相続時の不動産登記で必要となる書類「住民票」と「戸籍の附票」の違いや、それぞれが必要になるパターンについて詳しく解説していきます。
附票だけ?不動産の相続登記に必要な書類
不動産の相続登記に必要な書類は住民票もしくは戸籍の附票以外にもいくつかあります。
まずは相続登記に必要な戸籍や不動産の書類を確認しましょう。
相続登記の必要書類
不動産の相続登記で必ず必要になる書類は以下の通りです。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
法務局で取得 - 相続登記申請書
>>不動産登記の申請書様式について:法務省 - 不動産を取得する相続人の住民票もしくは戸籍の附票
- 固定資産税評価証明書
相続登記と同年度のもの
不動産がある市区町村の役所で取得
これらの必要書類に加えて、誰が相続するのかによって必要書類が異なります。
相続登記のパターンと必要書類
- 法定相続の割合に従って相続登記する
- 遺産分割の協議による相続登記
- 遺言書の通りに相続登記する
法定相続する場合は、被相続人の配偶者・長男・長女とした場合、それぞれの共有名義で登記します。
法定相続人を確定させるために、被相続人の出生から死亡までの戸籍・被相続人の本籍地が記載された住民票の除票もしくは戸籍の附票の除票・相続人全員の戸籍謄本が必要です。
遺産分割の場合は、さらに相続人全員の署名捺印がある遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。
住民票や戸籍の附票は相続登記に必要ですが、それ以外の戸籍はあらゆる相続の手続きで必要になる戸籍です。
戸籍の書類は役所で取得しますが筆頭者や本籍地が不明の場合は請求できません。
不動産の相続登記で住民票が必要になる場合
不動産の相続登記の手続きは、不動産を登記したときの住所と被相続人が亡くなった時の住所が同じ場合と違う場合で、用意するべき書類が違います。
不動産を登記したときの住所と、被相続人が亡くなったときの住所が同じ場合には、戸籍の附票ではなく、住民票の除票を取得することで同一人物であることを証明できます。
住民票とは?
住民票とは、住所を証明する書類のことで、引っ越し等で住む場所がかわった場合に、改めて登録が必要になります。
被相続人は亡くなっているため住民登録がなく、被相続人の最後の住所を証明する書類として、住民票の代わりに住民票の除票を取得します。
住民票で確認できる記載事項は下記です。
【生年月日】
【性別】
【住民となった年月日】
【住所を定めた年月日】
【転居したものについては、その住所を定めた年月日】
【世帯主の氏名及び世帯主との続柄】
【戸籍の表示】
住民票は確認できる住所の範囲が狭く、住民票に記載されているのは、現住所とその1つ前までの住所です。
- 以前住んでいた別の市区町村の住所
- 現住所(同一市区町村での引っ越しの場合は複数)
- 次の市区町村での住所
被相続人が複数回に渡る引っ越しをしていない場合や、不動産登記されている住所が同じだとわかっている場合には住民票で十分です。
不動産の相続登記で戸籍の附票が必要になる場合
不動産登記されている住所と被相続人の住所が別の場合は、住民票では証明できず戸籍の附票が必要です。
不動産登記をした時の住所と亡くなった時の住所が違う、不動産登記された場所が住民票の住所ではないといった場合は、住民票をさかのぼることで不動産登記をしたときの住所を見つけ出すこともできます。
しかし、それでは時間と住民票を発行するためのコストが多くかかってしまうため、「戸籍の附票」を取得することでスムーズに対応することができます。
戸籍の附票とは?
戸籍の附票は、戸籍の情報をもとにした「住所の移転履歴」です。
戸籍の附票の漢字は「附表」として表示されることがありますが、正しくは「附票」です。
調べると附表として説明がされているサイトもありますが、「附票」についての説明がされています。
戸籍の附票では、戸籍に属している期間の住所変更の記録をまとめて入手することができます。
戸籍の附票で確認できる表示事項は下記の通りです。
【住所】
【住所を定めた年月日】
【住所戸籍の表示】
住民票に記載されている住所以前の住所が必要な場合は、戸籍の附票を取得し、不動産の登記簿に記載されている住所と、同じ住所が戸籍の附票のどこかに記載されていないかを確認します。
もし記載されていれば、不動産の相続手続きで戸籍の附票を利用することができるということです。
戸籍の徐附票とは?
戸籍の附票の除票を戸籍の徐附票といいます。
戸籍の在籍者全員が死亡や婚姻などで抜けると除籍となり、この除籍された戸籍に付属する戸籍の附票が戸籍の附票の除票です。
また、戸籍法の改正により戸籍が新しく作り直されている場合は、現在の戸籍の前の戸籍である改製原戸籍となり、戸籍の附票・徐附票は取得できません。
この場合は改製原附票を取得します。
相続登記は戸籍の附票と住民票のどっち?違いは?
前述したように、戸籍の附票と住民票の違いの一つに、記載される事項の違いがあります。
戸籍の附票で確認できる事項は4項目、住民票は8項目なので情報量としては住民票の方が多いです。
それ以外に住民票と戸籍の附票では、住所の履歴が記載される範囲も違います。
相続登記で引っ越しが多い場合は、住民票よりも戸籍の附票や戸籍の徐附票の方が楽です。
戸籍の附票は引っ越しが多い場合に便利
不動産の相続登記では、登記上の住所と死亡時に住んでいた住所までの繋がりの証明が必要です。
住民票は市区町村をまたがって引っ越ししている場合、原則として死亡時の前の住所しか記載されません。
そのため、複数の市区町村で何度も回引っ越しをしている人や、地方の違う遠方へ引っ越しをしている人の場合、住民票を一つずつさかのぼって取得するのはかなり手間です。
しかし、戸籍の附票は「戸籍」をもとに「移動履歴」をまとめて作成されています。
その戸籍に在籍していた期間の住所履歴がまとめて記録されています。
戸籍の書類は本籍地の役所に行かなくても郵送で取り寄せることもできるので、相続登記の必要書類を集めるのにかなり効率的です。
戸籍の附票はコストも安い
戸籍の附票と住民票は、管理している市区町村も違います。
戸籍の附票は本籍地の役所、住民票は住所のある役所で取得することができます。
例えば、本籍地が世田谷区で住所が品川区の人がいたとします。
その人は、戸籍の附票が欲しい場合には世田谷区へ、住民票が欲しい場合には品川区へ行く必要があります。
尚、本籍地と住所が同じ市区町村の場合は、同じ役所内で管理されます。
住民票は1通300円~400円、戸籍の附表は250円~350円の手数料を支払って交付してもらうことができます。
住民票をさかのぼって1部ずつ発行するよりも、戸籍の附票を1部発行した方が費用を断然抑えることができます。
戸籍の附票も複数枚必要になる
これは注意点ですが、戸籍の附票が1枚あれば、これまでの住所の履歴が全てわかるというものではありません。
戸籍の附票はあくまで「戸籍」なので、「その戸籍の中に入っていた期間内の住所移転履歴」しかわかりません。
法改正や戸籍の変動などで戸籍が新しく作られていると、古い戸籍の情報は今の戸籍には記載されない仕組みです。
たとえば結婚をした人の場合、「出生から婚姻までの戸籍」と「婚姻から死亡までの戸籍」は異なります。
この場合、それぞれの戸籍に入っている期間の住所履歴しか確認することができないため、住所の履歴を確認するためには、今(結婚後)と結婚前の戸籍の附票が2枚必要です。
不動産だけでなくあらゆる相続の手続きは、戸籍をさかのぼって集めないといけないので、戸籍の附票や戸籍謄本など、戸籍の書類が一枚あればそれで足りるということはあまりありません。
相続の手続きで戸籍の書類が不足すると手続きがスムーズにいかないので、しっかりチェックしながら集めましょう。
相続登記で戸籍の附票が取得できない!保存期間が過ぎ場合は?
戸籍の附票や改製原附票など戸籍の書類には保存期間があります。
戸籍に関する書類は保存期間を過ぎたら直ちに破棄されるわけではないですが、その可能性が高いです。
令和元年より戸籍の附票の保存期間が150年になりましたが、それまでは5年の保存期間でした。
時間が経過したせいで、相続登記で戸籍の附票や住民票の除票を取得できないケースもあります。
相続登記の手続きでは戸籍の附票や住民票が取得できないと、本当に被相続人が不動産登記の名義人なのか確認ができません。
戸籍の附票や住民票が取得できない場合はどうすればいいのでしょう。
不在籍・不在証明を作成
戸籍の附票や住民票がない・住所の履歴を証明でない場合は、その証明として不在籍・不在証明書を作成します。
住所や本籍が存在しないという証明書で、登記簿に記載されている住所には現在住所や本籍がないことを証明します。
上申書を作成
戸籍上の被相続人と登記簿上の被相続人が同一人物であることを主張するための書面です。
戸籍の附票が準備できない場合には、「被相続人の登記簿上の住所が一致していないため、提出した戸籍簿ではその居住の事実を証明することはできないが、被相続人と登記簿上の名義人は同一人物である」ことを上申書として提出します。
上申書は相続人全員の印鑑証明書の添付が必要です。
法定相続人の証明としての上申書は不要になりました。
相続登記で上申書が必要になるケースは他にもあり、相続関係の証明があります。
これまでは戸籍の書類の保存期間が過ぎて相続人を証明できない場合、「ほかに相続人がいません」ということを証明するために上申書が必要でした。
この上申書が平成28年3月11日民二第219号通達により不要となり、役所で発行される「廃棄証明書(交付できない旨を記載)」の提出でよい扱いとなりました。
不動産権利証(登記済証)
登記簿上の被相続人と、戸籍上の被相続人が同一人物であるかの証明ができないので、被相続人が不動産を所有していたことを証明するために用意します。
相続登記で固定資産税納税証明書を提出する場合は不要です。
相続登記の戸籍の附票と住民票のまとめ
相続登記で必要な戸籍の附票や住民票は、状況によっていくつもさかのぼる必要があり、集めるのが困難になるケースもあります。
不動産の相続登記の手続きが難しい場合は、専門家に依頼することも検討しましょう。