同性カップルは日本では同性婚ができません。
結婚できれば同性パートナーに遺産を相続させることができますが、現在あるパートナーシップ制度では不可能です。
同性カップルの結婚の代わりとして養子縁組がよく知られていますが、相続にも使える手続きす。
相続は養子縁組以外にも遺言書や生前贈与などがあります。
ここでは同性カップルの相続を中心に、養子縁組のメリットとデメリットや養子縁組以外にも遺言書や生前贈与についてもまとめています。
同性カップルのお金に関するトラブルや判例もご紹介します。
同性婚の代替で同性カップルの養子縁組はリスクあり
同性婚ができない日本では、同性カップルでも養子縁組の手続きをすれば、法的に親子関係を結ぶことできます。
なので相続などのメリットが受けられます。
しかし、同性カップルが同性婚の代わりに利用する養子縁組ですが、この場合はトラブルというかリスクも考えられます。
最高裁の判決から、同性カップルの養子縁組はそもそも有効性があるのかという問題があります。
たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は効力を生じない。
最高裁昭和23年12月23日(民集2巻14号493頁)
同性婚の代わりに養子縁組を利用していると、無効と判断される可能性も否定できません。
同性カップルであっても養子縁組はあくまでも親子になる手続きです。
同性婚にはならず、養子縁組で親になった方を養親、子になった方を養子となります。
夫婦という形ではないので、同性カップルであっても満足のいかない場面も出てきます。
同性カップルで相続の面では養子縁組以外にも方法があります。
同性カップルの養子縁組はデメリットやトラブルもあるので、そのあたりを具体的に見ていきましょう。
相続だけ?同性カップルの養子縁組のメリット
養子縁組は相続の権利がありますが、メリットはそれだけではありません。
無料で手続きができる
養子縁組の手続きは無料です。
必要書類を窓口に提出するだけで手続きも完了します。
一方、パートナーシップ制度だと、公正証書などを作成する必要があります。
士業に依頼するとなると10万円以上かかり、結構な手間です。
条件も厳しくないため、簡単に手続きができるのもメリットです。
養子縁組の条件
養子縁組するには養親が成人であれば行うことができます。
年下が養子となりますが、同じ年齢の場合は1日でも早く生まれた方が年上の扱いです。
手続きには成人2名の署名が必要なので探しておきましょう。
>>中央区ホームページ/養子縁組の届け出には何が必要ですか?
相続できる
同性カップルの養子縁組の理由として一般的なのが相続です。
日本では同性婚ができないので、同性カップルが養子縁組で法律上の親子になれば、養子も養親も法定相続人になることができます。
養子縁組をしたその日から、実子と同じように養親の財産を相続することができます。
- 養親が亡くなれば養子が第1順位で法定相続人になる
- 養子が亡くなれば養親が第2順位で法定相続人になる
※養子に子供がいない場合
養親に子供・他の養子・婚外子がいない倍、養子が唯一の法定相続人となり、全ての財産を相続できます。
養親・養子の親が生きていれば共同相続人となり、実親も養親もいずれも養子縁組で相続人になることができます。
社会保障の扶養・税金・年金
同性カップルが養子縁組すると、税制上の優遇措置が受けられます。
- 扶養家族として所得税の控除が受けられる
- 遺族年金の受け取り
- 財産を相続する際の相続税控除の対象
- 死亡保険金の非課税枠
(生命保険の受け取り)など
このあたりはパートナーシップ制度ではできません。
他にも、
- 公共料金の家族割の適用
- 公営住宅への入居
- 共同名義でローンを組む
- 携帯の家族割
- 病院での面会や治療などの同意など
同性カップルが養子縁組をすることで、同性婚のように一つの家族としてあらゆる保証やサービスが受けられるメリットがあります。
同性カップルの養子縁組のデメリットは相続トラブル?
相続は同性カップルの養子縁組の大きなメリットですが、トラブルはそれだけではありません。
大きなデメリットは以下の3つですが、細かくいうと戸籍に養子縁組の記載が残るというのも人によってはデメリットかもしれません。
戸籍の記載については削除(隠す)ことができます。
相続トラブルになる可能性
同性カップルのうち養親が亡くなると、養子が相続することができますが、場合によってトラブルになる可能性があります。
たとえば、養親の親や兄弟姉妹が亡くなっている場合、養親の代わりに養子が相続人となるため(代襲相続)、周囲との関係性によってはトラブルに巻き込まれます。
養子が亡くなった場合、養親と実親は第2順位の法定相続人となります。
実親が亡くなっているとトラブルになりませんが、共同相続する場合に遺産分割協議を行う必要があります。
実親の方に理解がなかったり、互いの関係性が悪いと相続トラブルになりやすいです。
養親の親族の扶養義務
これはデメリットというか、トラブルになる可能性としてご紹介します。
法律(民法877条1項)により、養子は養親の親や祖父母を扶養する義務が発生します。
そのため、相続を目的とした同性カップルの養子縁組で、相続後に扶養義務を免除する意図で離縁の手続きをするとトラブルになる可能性は否めません。
※養親が亡くなった後、家庭裁判所で死後離縁の許可を受ければ、養親との親子関係が終わります。(民法8111条6項)
同性婚ができなくなる
同性カップルが養子縁組をすると、将来日本で同性婚が法制化された際、同性婚ができない可能性があります。
現在の法律では直系血族同士の結婚はできません。
これは養子・養親も含み、たとえ離縁しても同性婚ができないのは同様です。
養子縁組や結婚自体が同性カップルを想定していないため、同性婚の法整備がされる際にどうなるかは不明です。
同性カップルの相続は遺言書や生前贈与でも可能
養子縁組以外に相続できる方法があります。
それが遺言書の作成や生前贈与です。
遺言書は自分で作成できますが、書き方により無効になったり相続トラブルを回避するために、専門家に依頼するのが無難です。
遺言書の作成費用は安くて10万円程度、遺言の執行をし依頼するなら(執行者報酬)平均30万円程度、この費用は金額に対してかなり変動します。
生前贈与も金額ややり方によって、課税されるのでご注意ください。
同性パートナーを受取人にできる生命保険もあるので、相続ではないですがお金の対策としていいかもしれません。
相続や慰謝料に関する同性カップルのトラブルや判例
養子縁組によるトラブルではないのですが、お金に関する同性カップルの判例をご紹介します。
養子縁組する前に亡くなった同性カップルの判例
令和2年に男性同士の同性カップルの判決があります。
男性の同性カップルで約45年同居し、共同で事務所経営を行っていました。
片方が心臓発作で亡くなり、原告の残された同性パートナー(70歳)は被告の相続人に葬儀の立ち合いを拒否され、事務所の賃貸契約も解約され廃業となりました。
パートナーの親族の女性(妹)は、同居する二人の関係を理解していたように見えましたが、死亡後に態度が一変したそうです。
大阪地裁は被相続人が周囲や被告に原告がパートナーであることを告げておらず、被告に故意はないとして慰謝料の請求を棄却しています。
同性パートナーを親族に隠していたなどと指摘し、「親族には2人が夫婦と同一視すべき関係との認識はなかった」と判断したようです。
これは高裁でも覆りませんでした。
この男性同士の同性カップルは、養子縁組をして遺産を相続できるようにしようとしていた矢先に被相続人が亡くなりました。
いろんな事情から全ての同性カップルが同性婚・養子縁組・パートナーシップ制度の利用を望んでいるわけではないでしょう。
特にカミングアウトをしたくない人や、カミングアウトができない人はこういった手続きは難しくなると思います。
何かあった際に同性カップルは自己責任で片付けられることがありますが、生涯のパートナーがいるなら何かしらの対策を取っておくべきですね。
同性カップルの事実婚に賠償責任が認められた事例
相続ではないですが、お金にまつわることなのでご紹介します。
同性カップルで養子縁組もパートナーシップ制度も利用せず、事実婚(内縁関係)のように暮らしている方もいるかと思います。
事実婚は相続権が認められていませんが、2021年に女性の同性カップルに対して最高裁で賠償責任が確定した初事例があります。
これは同性の事実婚に最高裁が法的保護を認めた初事例です。
女性の同性カップルが不貞行為で破局したとして、慰謝料110万円の支払いが認められました。
7年近く同居していて、日本で結婚式を挙げ、米国で婚姻登録証明書の手続きを行っており、婚姻に準じる関係を認めています。
>>同性「事実婚」に法的保護認める 最高裁決定 日本経済新聞
婚姻登録証明書や同性婚を認める諸外国の傾向も踏まえての判決です。
同性カップルは相続だけでなく異性カップルと同様のトラブルがあります。
夫婦や異性同士の事実婚なら不貞行為に慰謝料が発生しますが、同性カップルの事実婚(内縁関係)も慰謝料が認められたのは心強いですね。
同性カップルの相続と養子縁組のデメリットのまとめ
同性婚ができない日本では、同性カップルでも養子縁組や遺言書などで相続することができます。
デメリットもあるので慎重に考えてくださいね。
相続を考えているなら予期せぬトラブルに備えて、今のうちに対策しておきましょう。