戸籍にはいくつか種類がありますが、相続の手続きにはどのような戸籍の種類が必要なのでしょう。
相続の手続きは相続人を確定させるために、被相続人(亡くなった方)の「出生から死亡までの戸籍全て」を集めて提出する必要があります。
「出生から死亡までの戸籍」とは、被相続人が出生することで記載された戸籍から、死亡の届出により戸籍から取り除かれるまでの全ての戸籍のことです。
一番最初の戸籍までさかのぼらないといけないので、相続の手続きではこの「出生から死亡までの戸籍」を集めるのが結構大変です。
具体的には、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍を集めるのですが、何枚もの戸籍の書類が必要になるので、どのような手順で戸籍を集めればいいのか迷うことも多いです。
ここでは相続の手続きで使用する戸籍について、「出生から死亡までの戸籍」の集め方、相続に必要な戸籍の種類や意味について解説します。
相続の「出生から死亡までの全ての戸籍」の意味
相続の手続きでは相続人の漏れがないかを確認し、相続人を確定させるために、被相続人の「出生から死亡までの全ての戸籍」が必要です。
相続の必要書類で「出生から死亡までの全ての戸籍」と聞いて、戸籍は一つじゃないの?どういう意味?と疑問を持った方もいると思います。
戸籍には、氏名、生年月日、親子関係、夫婦関係、婚姻、離婚、死亡などの「生まれてから死ぬまで」の記録が記載されています。
しかし、このような事項(出生から死亡までの記録)が、被相続人の1種類の戸籍に全て記載されるわけではありません。
なぜなら、戸籍の内容は戸籍が新しく作られることで、規定によって(戸籍法施行規則第39条)古い戸籍から新しい戸籍に情報が全て移記されないからです。
そのため、相続の手続きでは被相続人の「出生から死亡までのすべての戸籍」として、過去にさかのぼっていくつかの種類の戸籍を集める必要があります。
新しく戸籍が作られるタイミングは「戸籍の変動」と「法改正」があるので、相続で必要な戸籍集めをするうえで、まずはこの部分を押さえておきましょう。
戸籍の変動
戸籍の変動とは、何らかの戸籍の届出を行ったことを意味します。
- 結婚(婚姻)
結婚をして親の戸籍から出たとき - 転籍
本籍地が変更になったとき - 家督相続、分家、廃家
なんらかの理由で筆頭者(戸主)が変わったとき - 養子縁組
養子の縁組により実親から養親の戸籍に移ったとき
たとえば、被相続人が転籍をしていたら、転籍後に新しく戸籍が作成され、転籍前と転籍後の2つの戸籍があることになります。
出生から死亡までの全ての戸籍を集めるためには、この2つの場所で戸籍を取得することになります。
法改正で新しく戸籍が作られる
戸籍の変動は自らの意志(届出)によって手続き上、新たに戸籍が作られます。
これ以外に、法改正によって自動的に新しく戸籍が作られていることもあります。
この場合も、法改正前の戸籍と法改正後の新しい戸籍が、「出生から死亡までのすべての戸籍」として必要です。
新しい戸籍に移記されない内容
戸籍の変動や法改正で新しく作られた戸籍には、以下のような内容が移記されます。
重要な身分事項の移記(戸籍法施行規則第39条)
第三十九条 新戸籍を編製され、又は他の戸籍に入る者については、次の各号に掲げる事項で従前の戸籍に記載したものは、新戸籍又は他の戸籍にこれを記載しなければならない。
一 出生に関する事項
二 嫡出でない子について、認知に関する事項
三 養子について、現に養親子関係の継続するその養子縁組に関する事項
四 夫婦について、現に婚姻関係の継続するその婚姻に関する事項及び配偶者の国籍に関する事項
五 現に未成年者である者についての親権又は未成年者の後見に関する事項
六 推定相続人の廃除に関する事項でその取消しのないもの
七 日本の国籍の選択の宣言又は外国の国籍の喪失に関する事項
八 名の変更に関する事項
九 性別の取扱いの変更に関する事項
2 前項の規定は、縁組又は婚姻の無効その他の事由によつて戸籍の記載を回復すべき場合にこれを準用する。
>>戸籍法施行規則
これ以外の事項は新しい戸籍に記録されません。
たとえば、被相続人が転籍をしていて、仮に離婚歴があったとしても、「離婚の事項」は転籍後の新しい戸籍に記載されません。
過去に認知した子供がいても、親側の戸籍には同じように転籍後の新しい戸籍には記載されません。
(認知事項や縁組事項の記録は親側の新しく作られた戸籍には移記されません)
他にも被相続人の子供が結婚をして転籍していた場合、被相続人の戸籍から子供の記載がなくなるなどがあります。
相続の手続きに必要な戸籍の種類は3つ
相続で必要な「生まれてから死亡までの戸籍」の種類は、冒頭でもお伝えした「戸籍謄本」「除籍謄本」「改正原戸籍謄本」があります。
戸籍謄本とは?
戸籍謄本とは正式名は戸籍全部事項証明といいます。
一般的に相続の手続きで必要になる戸籍ですが、状況によって戸籍抄本でも手続きが可能な場合もあります。
戸籍謄本はその戸籍に載っている全員分の内容が書かれた証明書で、両親の名前・生年月日・婚姻・離婚などの身分に関する事項が全て記載されています。
相続のように、家族全員分の証明として戸籍が欲しい時に必要な戸籍です。
除籍謄本とは?
戸籍の在籍者が除籍で抜けてしまい空っぽになった場合に、除籍謄本が作成されます。
戸籍に記載されている人全員が戸籍から消えた場合、戸籍は戸籍簿から消去され除籍簿へと移されます。
除籍簿に移された戸籍謄本を除籍謄本と呼びます。
戸籍から除籍される(記載されていた人が消える)のは、養子縁組、結婚、離婚、転籍、失踪宣言、死亡などのケースがあります。
被相続人の戸籍に配偶者やその子供が除籍されず一人でも残っている場合は、除籍謄本ではなく「除籍の記載がある戸籍謄本」が必要です。
除籍の記載がある戸籍謄本は、除籍謄本ではなく戸籍謄本として扱われます。
相続の手続き先によって「除籍謄本を用意してください」と言われることもありますが、「除籍の記載がある戸籍謄本」を意味する場合もあります。
人によって除籍謄本がないこともありますからね。
相続に必要な戸籍の種類が、除籍の記載がある戸籍謄本なのか除籍謄本なのか、どちらになるのか戸籍を見て確認しましょう。
全員が除籍されていたら除籍謄本が必要です。
改製原戸籍とは?
改製原戸籍とは改製される前の戸籍です。
除籍謄本も改製原戸籍も過去の古い戸籍のことで、現在、有効な戸籍は現在戸籍とも言われます。
これまで省令等で戸籍の様式が2回変更されています。
相続の手続きでは、生まれてから死亡までの戸籍として、改正前の戸籍も取得する必要がある場合がほとんどです。
また、改製原戸籍は時代によって保管期間が異なります。
- 明治19年式の戸籍(80年)
- 明治31年式の戸籍(80年)
- 大正4年式の戸籍(50年)
- 昭和23年式の戸籍(100年)
- 平成22年戸籍法改正後の戸籍(150年)
保管移管が過ぎている改製原戸籍は、破棄されている可能性があります。
改製原戸籍が保管されていない場合は、役所に相談して相続の手続きを進めましょう。
戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の費用
戸籍謄本 | 450円 |
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除籍謄本 | 750円 |
改製原戸籍 | 750円 |
相続の手続きでは戸籍謄本や改製原戸籍などを集めますが、平均で相続に必要な戸籍は5枚程度のようです。
相続人が多いとその枚数も増え、費用もそこそこかかります。
相続手続きの「生まれてから死亡までの戸籍」を集める方法
では実際にどのようにして相続で必要な「生まれてから死亡までの戸籍」を集めるのでしょう。
1つの例として相続で使用する戸籍の集め方の流れを紹介します。
1.被相続人の最後の本籍地で最終の戸籍謄本を取得する
被相続人の本籍地が判明している場合は、まず最初に死亡(除籍)の記載がある本籍地の市区町村で「出生から死亡までの戸籍謄本を指定」して請求をします。
戸籍の請求は本籍地や筆頭者がわかっていないと請求できません。
本籍地や筆頭者が不明の場合は、被相続人の住民票を取得するなどの方法で確認可能です。
2.取得した戸籍謄本の内容を確認する
1で取得した戸籍謄本の内容を見て、戸籍の改製日や転籍などの戸籍の変動の記述がないか確認します。
改製日の記述があれば、次は改製原戸籍を本籍地のある役所で取得します。
被相続人が本籍地を移した転籍の記述があれば、1で取得した戸籍謄本に旧本籍地(従前戸籍)が記載されています。
その場合は、記載されている旧本籍地で戸籍を請求します。
3.取得した戸籍(謄本・改製原戸籍)の内容を確認
仮に2で取得した戸籍謄本に改製日の記載があれば、改製原戸籍があるためそれを請求します。
他にも戸籍謄本や改製原戸籍に転籍の記述があれば、2と同様に旧本籍地で転籍前の戸籍の請求を行います。
このように相続で必要な戸籍の取得は、被相続人の戸籍をさかのぼり、生まれたときの本籍まで全て揃えます。
取得した戸籍が証明している期間が、被相続人が生まれた日より後からのものであれば、被相続人が生まれた日から証明されている戸籍までさかのぼって取得します。
生まれた日の記載がある戸籍を取得することで、「生まれてから死亡までの戸籍」を取得したことになります。
相続する人が兄弟姉妹になる場合
兄弟姉妹が相続人となることもありますよね。
相続人が配偶者やその子供なら、被相続人の「出生から死亡までの全ての戸籍」を集めるのはそこまで複雑ではありません。
上記で解説したように、被相続人の最終の本籍地で戸籍を集めて、順にさかのぼっていくだけです。
しかし、相続人が被相続人の兄弟姉妹にある場合は、広範囲の戸籍を集めなければいけないのでかなり大変です。
兄弟姉妹が相続の手続きをする際の必要な戸籍はどうなるのでしょう。
兄弟姉妹は相続人ではない
相続の手続きで戸籍を集める作業を代表して行う人は、優先順位が決められています。
- 配偶者
- 被相続人の子供
- 被相続人の両親
- 被相続人の両親
- 被相続人の孫
上記を代襲相続人と呼び、ここまでが直系相続人となり、相続人として扱われます。
被相続人の兄弟姉妹は直系相続人ではないので、基本的には相続人として扱われません
兄弟姉妹が相続の手続きを行うケース
兄弟が相続人として相続手続きをするケースは以下のようになります。
- 被相続人の配偶者、子供、両親、代襲相続人が全ていない、あるいは亡くなっている
- 被相続人の配偶者、子供、両親、代襲相続人が全て親族権を排除されている
- 子全員が相続権を放棄している
(子が相続権を放棄した場合、その子供には代襲相続人としての権利が及びません)
つまり、被相続人にとっての兄弟が相続の手続きをする場合、自分よりも優先順位の高い相続人がいないことを証明する必要があります。
- 被相続人の亡両親(父母)の出生から死亡までの戸籍
異父兄弟・異母兄弟の存否の証明のために必要 - 相続人全員の戸籍謄本
被相続人の兄弟全員の戸籍謄本が必要
このように、被相続人の「生まれてから死亡までの戸籍」以外に必要な戸籍が増えます。
直系親族以外が相続人となる場合、相続に必要な戸籍を集めるのが難しくなるので、専門家に依頼するのも一つの方法です。
司法書士や行政書士に依頼する場合は、平均数万円~10万円、相談する場合は無料~2万円の費用が必要です。
相続の手続きに必要な戸籍の請求方法
相続に必要な戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の請求方法は、役所へ申請書を出すだけです。
戸籍は役所で集める
具体的な戸籍の請求方法としては、市区町村役場の窓口に行って請求する、あるいは郵送で請求することになります。
本籍地が遠くて除籍謄本や改製原戸籍の取り寄せができない場合は、郵送での請求も可能です。
最近ではコンビニ交付に対応している自治体もありますが、戸籍謄本のみです。
除籍謄本や改製原戸籍謄本はコンビニで取ることができません。
被相続人の兄弟は戸籍が請求できない?
相続で戸籍を請求できるのは、原則としてその戸籍に記載がされている本人、直系親族、配偶者です。
同一戸籍に記載されていない場合は、関係がわかる書類を提出する必要があります。
それ以外の人が戸籍を請求する場合は、請求理由の説明が必要です。
直系親族とは、被相続人にとっての祖父母、父母、子、孫、ひ孫のことを指し、被相続人の兄弟は該当しません。
ただ、兄弟が被相続人の戸籍をとることはできます。
なぜなら、「権利行使のために必要である限り取得することができる」と扱われるからです。
戸籍謄本の請求理由として、兄弟の遺産相続が発生していること、優先順位の高い相続人がいないことなど、ありのままの状況を伝えましょう。
そうすれば戸籍謄本や改製原戸籍など、それぞれの戸籍の取得が可能です。
戸籍謄本が必要な相続の手続き
相続の手続きには戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍といろんな種類の戸籍が必要です。
これらの戸籍が必要な相続の手続きには、どんなものがあるのでしょう。
- 不動産の相続登記
- 預金の相続
(銀行名義) - 株の相続
- 相続の放棄
どの手続きも相続人を明らかにするために「出生から死亡までのすべての戸籍」や「相続人全員の戸籍謄本」が必要です。
それ以外に相続の手続きによって必要な戸籍や書類が変わり、たとえば不動産の相続だと戸籍の附票、預金の相続だと印鑑証明が必要です。
相続の「出生から死亡までのすべての戸籍」の集め方のまとめ
相続の手続きは被相続人の「出生から死亡までのすべての戸籍」を集めるのに一苦労です。
とくに兄弟姉妹が相続するとなった場合、戸籍の種類が増えたり戸籍を集める範囲が広くなります。
「出生から死亡までのすべての戸籍」は、一つでも欠けてしまうと相続の手続きができないので、しっかり確認しながら焦らず集めてくださいね。