男女が結婚している場合の子供は、もちろんその両親の戸籍に入ることになります。
その一方で未婚の母親が出産した子供の場合、どの戸籍に入ることになるのでしょうか
子供の戸籍は父親の認知の有無によって状態が変わります。
ここでは未婚の母親が出産した子供の戸籍や、法律上の婚姻関係はなくても父親であると認めさせる認知の手続きについて解説します。
未婚で認知されるメリットやデメリットもご紹介しています。
未婚で出産した子供の戸籍はどうなる?
まず、未婚で出産した子供の戸籍の状態ってどうなるのか気になりますよね。
未婚の場合は子供は母親の戸籍に入りますが、戸籍の状態は少し変わります。
未婚の母親と子供の戸籍が作られる
戸籍法第六条によって1つの戸籍に記載できる親族関係は親とその子供の2代までと定められています。
未婚の母親が出産して役所に出生届を出すと、あなたと子供だけの戸籍が新しく作られることになります。
戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし、日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻をした者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。
戸籍法第6条>>戸籍法
未婚の場合は子供は母親の戸籍に入るため、子供の戸籍の父親の欄は空白となります。
たとえ子供の父親が誰なのか明確にわかっていたとしても、未婚で婚姻届を提出していなければ法律上は父親とは認められません。
子供を父親の戸籍に入れるには認知する
未婚の母親が出産した子供の戸籍に父親を記述する場合には、「認知」の手続きをする必要があります。
認知とは戸籍上は未婚の男女間で生まれた子供を、自分の子供であると法律的に認める手続きです。
未婚でも認知をすることで法律上で父親として認められ、子供の戸籍の空白だった父親の欄にその父親の名前が記載されるようになります。
- 認知なしの子供
認知されていない子供の戸籍の父親の欄は空欄 - 認知ありの子供
認知された子供の戸籍の父親の欄は認知した男性の名前が入る
「認知」は、この父親が「認知の届出」をすることで、法律上「父親」として認められ、戸籍の子供の父の欄に初めて「父」の名前が入ります。
また、この父親の戸籍にも「どこのだれを認知した」かの旨が記載されることになります。
離婚後に出産した子供は無戸籍の問題もある
未婚で出産しても離婚後の日数によって、出産した子供の戸籍がない=無戸籍になることもあります。
問題として取り上げられるのが、離婚後300日問題と言われるものです。
婚姻の成立から200日を経過した、または離婚後300日以内に出生した子供は前夫の子と推定されるという法律(民法の772条の2項)が影響しています。
この法律上の夫婦の間に生まれた子供は、嫡出子(ちゃくしゅつし)と呼びます。
300日以内に新しいパートナーとの子供でも出生届を出してしまうと、前夫が子供の父親として戸籍に記載されてしまい、それを避けるために出生届を出さず子供が無戸籍になってしまう例があります。
他にもDVなどによって父親に子供の存在を知られたくない、などの事情もあります。
しかし、2007年に法務省民事局長通達により「離婚後に子供を妊娠したことを医師が証明すれば前夫の子供と扱わない」となっています。
離婚後に未婚で出産した子供の無戸籍を避けることができます。
未婚で出産した子供を父親が認知するメリット
未婚で出産した子供を父親が認知することで、2つのメリットを得ることができます。
- 養育費を請求できる
- 相続権を得られる
父親が認知することで、未婚の母親にとってもその子供にとっても、大きなメリットとなるので可能なら認知の手続きを行いましょう。
認知で養育費を請求できる
未婚でも子供を認知することで、父親と子供の関係が法律上成立するため扶養義務が生じます。
扶養義務とは一定範囲の親族が、お互いに負う生活保障の義務のことを言います。
その中には養育費も含まれているため、父親が子供を認知をすることで養育費の請求ができます。
認知した子供の養育費の金額は、子供の父親との話し合いや、そもそも話し合いが困難な場合には家庭裁判所の調停や審判によって決定されます。
養育費は父親と母親の収入・子供の人数・年齢によって金額が変動します。
子供の養育費の相場については「裁判所COURTS IN JAPAN」が公開している養育費・婚姻費用算定表である程度計算することができます。
例えば父親の年収が500万円で母親の年収が100万円、子供(0~14歳)が1人の場合には、月に4~6万円程度が相場になります。
これらはあくまでも相場なので、実際には多少前後する可能性も十分に考えられます。
認知で相続権を得られる
相続権とは相続財産の引き渡しを請求できる権利のことです。
未婚で出産した子供を認知することで、父親と母親に婚姻関係がないとしても法律上は子供の父親ということになるので、相続権を得ることができます。
結婚した夫婦の子供は嫡出子となりますが、父親が認知しても母親と未婚の状態なので、子供は非嫡出子または婚外子と言われる立場となります。
嫡出子と非嫡出子の違いは、既婚か未婚かということだけで親子関係は同じです。
- 嫡出子
婚姻関係にある状態で出生した子供 - 非嫡出子
婚姻関係にない状態で出生した子供
平成25年9月4日までは父親に法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供(嫡出子)がいた場合には、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の半分とされていました。
しかし、最高裁判所の判決によって、今までの法律が非嫡出子にとって不平等であると判断され、現在は父親に嫡出子がいたとしても、非嫡出子の相続分は同じ割合になります。
嫡出子は急に現れた非嫡出子によって相続分が半分になるということを不満に思うことが多く、そのことからトラブルに発展するケースも発生しています。
その場合は弁護士に相談するなど冷静に対処するようにしましょう。
父親が子供を認知をしたデメリット
未婚で母親が出産した子供を認知をするデメリットは特にありません。
あえて挙げるとすれば、子供に父親の扶養義務が生じることです。
扶養義務は「一定範囲の親族がお互いに負う生活保障の義務」ということを紹介しました。
お互いに生活保障の義務を負うということは、もちろん子供から父親に対しても例外ではありません。
万が一父親が病気や生活に困窮した場合、認知した子供が介護や療養などの面倒見的扶養や金銭の援助などの経済的不要を行う義務が生まれます。
子供に負担がかかることも十分に考えられますが、それよりも母親や子供にとってメリットの方が圧倒的に大きいので、そこまで深く考える必要はないかもしれませんね。
未婚で出産した子供の認知の手続き
認知の手続きは役所に認知届を提出することで、法律上の婚姻関係はない男女から生まれた子供を父親または母親が子供だと認めることができます。
未婚の母親が子供の父親に認知を求める手続きは3つがあります。
- 任意認知
- 強制認知
- 遺言認知
どの認知の手続きを行うのかで、今後の流れが大きく異なってくるので慎重に選択しましょう。
場合によっては子供の父親と裁判になることもあるので、その辺りも覚悟を決めておくと良いかもしれません。
任意認知の手続き
任意認知とは子供の父親が自ら子供の父親であることを認めるものです。
父親が自らの本籍地または認知する子供の本籍地にある役所に行き、「認知届」を提出することで行うことができます。
ただし、認知される子供が20歳以上になっている場合は子供の承諾書が必要です。
※届書に認知する子の同意について記入押印があれば承諾書が不要の場合もある
任意認知の手続きに必要なものは以下のとおりです。
- 手続きの場所
- 認知届
- 認知する者(父親)の印鑑(認印可)
- 父親と子供の戸籍謄本(本籍地以外で提出する場合)
- 父親の公的証明書(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)
・父親もしくは子供の本籍地の役所
・父親の住民票を管轄する役所
(子供が成年者の場合は子の承諾書が必要)
認知届は各役所の窓口もしくはホームページからダウンロードすることができます。
ホームページからダウンロードする場合は、自分で印刷して持参しましょう。
強制認知の手続き
強制認知とは子供の父親が認知から逃げることを防ぐための制度で、家庭裁判所によって強制的に法律上の親子関係を成立させるものです。
流れとしては、まず家庭裁判所に認知を求める調停を申出ます。
(認知調停)
調停では子供の父親と母親が話し合いを行い、双方が認知に納得した場合にはそこで終了します。
しかし、調停で認知の合意が得られなかった場合、その次は裁判が開かれます。
その後の展開については、全て裁判所の判決で決まることになります。
DNA鑑定により父子関係が認められた場合、その結果を覆せない限り認知が認められます。
また、子供の父親が認知せずに亡くなった場合でも、3年までは死後の強制認知が可能です。
遺言認知の手続き
遺言認知は子供の父親が遺言として、自分の子供であることを記載することで効力を発揮するものです。
この場合には亡くなった時点で認知が適用されます。
そのため相続権は問題なく得られることになります。
愛人の子供など何らかの事情があって、生きている間に認知が行えない人が利用する場合が多いです。
この際の遺言書は父親自らが執筆することもできるのですが、遺言書には様々なルールがあるので、それらを満たしていない場合には認められないこともあります。
そのため多少の手間と費用はかかりますが、公正証書で遺言を残すことをおすすめします。
手続きは遺言の執行者が行います。
遺言者の本籍地・子供の本籍地・執行者の住所地のいずれかの役所で可能です。
執行者を定めていない場合は、相続人が家庭裁判所で遺言執行者選任の手続きが必要です。
胎児認知の手続き
認知は子供を出産する前、つまり母親のお腹の中にいる胎児の段階でも可能です。
母子手帳を交付される時期から認知届を提出できるのが一般的です。
胎児認知の手続きは、父親が胎児が自分の子供であることを認めて、母親の本籍地で認知届を提出します。
認知は子供が産まれてから手続きしますが、父親が病気でいつ亡くなってしまうかわからない、というような場合に胎児認知を利用します。
近年では外国人の女性と日本人男性との間に生まれる場合に、胎児認知の手続きを利用されることが増えています。
日本では子供の出生時に父親または母親が日本人である時に、その子供は日本国籍を自動で取得します。
しかし、婚姻していない外国人女性と日本人男性の子供の場合、法律的に日本人男性が子供の父親であることが確定しておらず、子供が産まれた時に日本国籍を取得することができない状態です。
そのため、胎児の時点であらかじめ認知しておくことで、父親が日本人であることが確定し、子供の日本国籍を取得することができます。
認知されても子供の戸籍の苗字は変わらない
認知で気になる疑問の一つに、父親に認知された子供の苗字がどうなるのかということがあります。
未婚で出産した子供は母親の戸籍に入るため、子供は母親の苗字となります。
子供を父親に認知されたからといって、父親の苗字に変わることはありません。
子供を父親の苗字に変えるには、民法第791条によって家庭裁判所の許可を得る必要があると記載されています。
子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
民法第791条
家庭裁判所へ苗字の変更(氏の変更)を申立てて、許可されたら子供の苗字を父親に変更できます。
しかし、子供の苗字が変更されたら、母親の戸籍から父親の戸籍へと子供が移ります。
未婚で出産した子供の戸籍と認知の手続きのまとめ
未婚で出産した子供は、母親と子供の戸籍が作られ、戸籍の父親の欄は空欄となります。
認知の手続きを行うことで、戸籍に父親が記入されます。
子供の認知の手続きはいくつか種類があるので、認知が必要な方は状況に合わせて手続きしましょう。