養子縁組を考えている方で、縁組が成立したあとで戸籍の記述がどう変わるのか不安になる方もいると思います。
養子縁組という制度は万人が利用する制度ではない上に、戸籍の仕組みなんて普段の生活に馴染みがないですからね。
戸籍への不安を持つことも無理からぬことです。
お察しの通り、戸籍の制度というのは複雑で、養子縁組の場合にもさまざまなケースが考えられます。
ここでは、養子縁組にした場合に戸籍がどのように変化するのか、特別養子縁組などとの関係も含めて書きます。
法律の話になりますので固い話題ですが、できるだけ噛み砕いて説明しますので最後までお読みください。
普通養子縁組による戸籍は4パターン
養子縁組をしたあとの戸籍の変わり方は、現在の戸籍の状況によって4つのパターンに分かれます。
1.養親の既存の戸籍に養子が入る
普通養子縁組で以下の3つの条件をすべて満たすと、養親の既存の戸籍に養子が入ります。
- 養親が筆頭者、または養親が筆頭者の配偶者、またはその両方
- 養子が独身
- 養親と養子の戸籍が別
筆頭者とは戸籍の最初に名前が書かれている人のことです。
結婚していれば夫または妻のどちらかのうち、結婚のときに名字が変わらなかったほうが戸籍の筆頭者です。
養子を迎えたら、養子の戸籍の名字も養親の名字と同じに変わります。
一般的にイメージされる養子縁組は、このパターンがいちばん多いでしょう。
2.養親の戸籍に養子が入る
以下の3つの条件をすべて満たすと、普通養子縁組で養親が新しい戸籍を作って養子がそこに入ります。
- 養親が戸籍の筆頭者に書かれてない、かつ、養親が筆頭者と婚姻関係に無い
- 養子が結婚していない
- 養親と養子の戸籍が同じではない
パターン1との違いは養親が筆頭者でないという部分です。
つまり、養親が養親の親の戸籍に居るときは、養親を新しい戸籍で独立させて、そこに養子を入れる形になるのです。この場合も養子の名字は養親と同じ名字です。
3.戸籍はそのままで変わらない
2つの条件のいずれかに該当すると、普通養子縁組をしても戸籍はそのままで変わりません。
- 養親と養子が同じ戸籍内に存在する場合
- 養子が夫または妻の戸籍に入っている場合
1に該当すると、同じ戸籍の中での養子縁組となるので、戸籍の変化はありません。
ただ、戸籍の身分事項の欄に「養子縁組」と記載されるだけです。
もとから同じ戸籍に在籍しているので、戸籍は変わらないというわけですね。
2は養子が結婚していて、すでに配偶者のほうの戸籍に入っている際に該当します。
実子と実親の関係でも、実子が結婚して配偶者の戸籍に入ったら実親と戸籍が別になりますよね。
それと同じです。
養親が結婚後の実親と同じ位置づけになると考えれば良いです。
4.養子夫婦で新しい戸籍を作る
以下の条件をすべて満たすと、普通養子縁組により養子夫婦で新しい戸籍を作ります。
- 養子が既婚である場合
- 養子が筆頭者として戸籍に書かれている場合
養子夫婦で養親と同じ名字の戸籍を新しく作ります。
この場合は配偶者も自動的にその戸籍に入籍します。
ただし、子どもは自動では入籍されないため、個別に入籍届を出さないと、子どもを同じ戸籍に入れることはできません。
特別養子縁組とは何か?普通養子縁組の違い
養子縁組には特別養子縁組と普通養子縁組があります。
この2つは全く異なる手続きなので、特別養子縁組についてもみていきましょう。
特別養子縁組は実親との縁が切れる
普通養子縁組は、戸籍上に実親と養親の2組の親が存在します。
一方で、実親との親子関係を完全に解消し、養親とだけ親子関係を結ぶ制度です。
法律上、養親は実親となるので、特別養子縁組をすると相続や扶養などの義務も全て発生します。
特別養子縁組をすると養親が法律上の親となり、実親とは法律上は赤の他人です。
これは子どもの福祉の増進を図るためとされています。
特別養子縁組の手続きは、制度を悪用されないように子どもの年齢や実親の同意など一定の要件を満たさないと利用できない制度です。
特別養子縁組の要件を満たした上で、家庭裁判所から許可を得なければ縁組はできません。
この縁組では上記の通り実親との戸籍上の関係が解消されることになるので、必ず養親と同じ戸籍に入ります。
特別養子縁組で上手く行かなかったら?
特別養子縁組がいったん成立したら、原則として離縁をすることができないとされています。
(民法817条の10)
ただし、特別養子縁組をしたあとでも例外的に離縁が認められ、実親との関係を復活させることもできます。
例えば養親が養子に対して虐待やネグレクトを行ったなどがあると、以下の条件をすべて満たせば離縁が認められる可能性があります。
養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること
実父母が相当の監護をすることができること
民法817条の10
この3つの条件を満たすと家庭裁判所が認めた場合には縁組の離縁となり、養親との関係は解消されます。
そして実親の戸籍に親子関係が復活します。
養子縁組した場合の戸籍の記載
特別養子縁組と養子縁組では、戸籍への影響も異なり、記載される内容が変わります。
養子縁組に関する内容は、赤枠部分(身分事項の欄)に記載されます。
上記の戸籍のサンプル画像はあなたが戸籍の筆頭者の場合に赤枠の部分に記載されるので、配偶者や子供となると2つ目以降の身分事項欄に記載されます。
普通養子縁組の戸籍の記載
養親の父母どちらかを筆頭者とした戸籍の子(養子)の欄には、以下のような記載がされます。
戸籍に記載されている者 |
【名】●● ●●●(養子の名前) 【生年月日】●年●月●日 【配偶者区分】 【父】●● ●●●(実親) 【母】●● ●●●(実親) 【続柄】長男・長女など 【養父】●● ●●● 【養母】●● ●●● 【続柄】養子 |
身分事項 出生
養子縁組 |
【出生日】●年●月●日 【出生地】●県●市●町 【届出日】●年●月●日 【届出人】父(母) 【送付を受けた日】●年●月●日 【受理者】●県●市長 |
【縁組日】●年●月●日 【養父氏名】父 【養母氏名】母 【従前戸籍】●県●市(実親と同じ本籍地の記載 |
戸籍には筆頭者との「続柄」を書く欄があります。
実子なら「長男」「長女」と書かれますが、普通養子縁組の手続きをしたら戸籍の記載は「養子」あるいは「養女」となります。
また、養子の身分事項の欄には養子縁組された旨が記載されます。
一方で普通養子縁組をした養親の戸籍にも縁組したことが記載されます。
特別養子縁組の戸籍の記載
特別養子縁組の場合は下記の内容が戸籍に記載されます。
戸籍に記載されている者 |
【名】●● ●●●(養子の名前) 【生年月日】●年●月●日 【配偶者区分】 【父】●● ●●● 【母】●● ●●● 【続柄】長男もしくは長女 |
身分事項 出生
民法817の2 |
【出生日】●年●月●日 【出生地】●県●市●町 【届出日】●年●月●日 【届出人】父(母) 【送付を受けた日】●年●月●日 【受理者】●県●市長 |
【民法817の2による裁判確定日】●年●月●日 【届出日】●年●月●日 【届出人】父(母) 【従前戸籍】●県●市(養親と同じ本籍地の記載) |
戸籍にには特別養子縁組の条文「民法817条の2」と記載され、養子縁組をした事実がわかるようになっています。
普通養子縁組とは違い、特別養子縁組をしたら戸籍には実子と全く同じように「長男」「長女」と記載されます。
実親の戸籍の子の欄(身分事項)には「特別養子縁組」と記載されます。
戸籍に記載されている者 除籍 |
【名】●● ●●●(養子の名前) 【生年月日】●年●月●日 【配偶者区分】 【父】●● ●●● 【母】●● ●●● 【続柄】長男もしくは長女 |
身分事項 出生
特別養子縁組 |
【出生日】●年●月●日 【出生地】●県●市●町 【届出日】●年●月●日 【届出人】父(母) 【送付を受けた日】●年●月●日 【受理者】●県●市長 |
【特別養子縁組の裁判確定日】●年●月●日 【届出日】●年●月●日 【届出人】養父母 【送付を受けた日】●年●月●日 【受理者】●県●市長 【新本籍】●県●市●町 【縁組後の氏】●● |
実親の戸籍から実子であった子の名前や生年月日などの横に「除籍」と記載され、実親の戸籍から抜けて法的には親子ではなくなります。
さらに子の身分事項の欄に特別養子縁組と記載されます。
特別養子縁組の実子は追跡できる?
特別養子縁組の場合は、実親から養子への干渉を防ぎたいという養親の気持ちもあったり、養子のプライバシーの権利もあります。
そこで、実親から養子の戸籍を辿られないように戸籍の作り方に工夫がされています。
具体的な戸籍の作り方は以下のとおりです。
- 実親の戸籍から子を除籍する
- 縁組される子を筆頭とする単独の新しい戸籍を作る
- 2の戸籍から養親の戸籍へ入籍する
このように養子だけの戸籍を間に噛ませることによって、実親が戸籍をたどって子を追跡することを防止しています。
戸籍謄本を取れるのは直系の親族と配偶者だけです。
実親の戸籍からは子は除外されているので、法的にはすでに直系親族ではないことになり、2の戸籍から先は辿れないというわけです。
ただし、養子の方から実親を辿ることはできます。
2の戸籍は自分の戸籍なので、申請すれば取れます。
もし養子本人が大人になり実親が誰なのか知りたいと自分で思ったときには、それを知る権利はあるということです。
戸籍から養子縁組の記載は削除できる?
戸籍から一部の事項を削除することはできます。
養子縁組も削除できる事項の一つで、特別養子縁組に限り、転籍することで新しい戸籍から養子縁組の事項を削除することができます。
実子と同じように記載されるので、特別養子縁組したことがわからなくなります。
厳密には古い戸籍に特別養子縁組の記載が残るので、完全に戸籍からその事実を削除することはできず、普通養子縁組は転籍で新しく戸籍を作っても「養子」の記載が残ります。
養子縁組の違いと戸籍の記載のまとめ
普通養子縁組と特別養子縁組では戸籍の記載内容が変わります。
普通養子縁組の場合は、戸籍上の実親との縁は切れず、戸籍にも養親や養子の記載が残ります。
特別養子縁組は、戸籍上で養親が実親となり、戸籍の続柄は実子と同じような記載となります。
どちらの養子縁組も戸籍に養子縁組をした事実が残りますが、記載されたからといって何か不利になるということはありません。
どうしても気になる場合は、特別養子縁組に限りですが、転籍を検討するといのではないでしょうか。