日本には数百人の戸籍がない人、つまり無戸籍者がいます。
2019年時点で法務省が把握している無戸籍者は830人ですが、実際にはさらに多くの無戸籍者がいるとみられています。
無戸籍者の人達には、それぞれの事情がある場合がほとんど。
それではなぜ戸籍がない人が出てしまうのでしょうか?
また、無戸籍のままでいることは多くのデメリットがあります。
ここでは、無戸籍になる理由や無戸籍者のデメリットをまとめました。
無戸籍者の解決方法として、戸籍を取得する方法やその手続き方法も全て解説します。
戸籍がない無戸籍者になる理由
戸籍がない無戸籍者になる人が出る理由は、父母が生まれた子供の戸籍の手続き=出生届を出さなかったことです。
出生届とは戸籍の手続き(届出)の一つで、子供が生まれたことを国に報告をする手続きです。
出生届は法律上 (戸籍法49条1項,52条)の義務なので、全ての人が出生届の手続きをする必要があります。
子供を出産した病院から、必要事項に記入された戸籍の出生届(出生証明証)を受け取るのですが、赤ちゃんが生まれた日を1日目として計算したときに、14日以内に役所へ届出する必要があります。
出生届を出すことで子供の戸籍が作られるので、出生届の手続きをしなかった場合は無戸籍者となります。
それでは、なぜ戸籍の届出の決まりがある中で、無戸籍者になる人が出てしまうのでしょう。
戸籍がない無戸籍者が出る理由として多いのが以下の理由です。
- 父母が出生届を病院側が出してくれると勘違い
- 摘出推定を避けるために親が無戸籍を選んだ
病院が戸籍の出生届を出してくれると勘違い
無戸籍になる理由として、病院が出生届を提出して手続きをしてくれるものだと思っていたという勘違いがあります。
勘違いのせいで父母は戸籍の手続きをしなかったため、子供の戸籍が作られず、無戸籍のまま育ってしまう子供がいます。
病院が父母への確認をせずに、勝手に戸籍の手続き(出生届)を行うことはできません。
子供の戸籍の手続きに必要な出生届は病院から受け取りますが、生まれた子供の父母が役所の戸籍の窓口で提出する必要があります。
経済的に出産費用を払えず、病院から出生証明書をもらえなかったことが理由で、戸籍の出生届を出せず無戸籍者になるケースもあります。
戸籍の手続きが遅れたら罰金になるのでご注意を!
子供が生まれた後の戸籍の手続きは出生届を出すだけなので簡単ですが、この手続き遅れた場合、戸籍法135条により5万円以下の罰金がかせられる可能性があります。
出生届の提出が遅れて罰金を支払ったという方もいるでしょう。
震災や災害などのやむを得ない理由がある場合は、手続きが遅れても罰金の対象にならない場合もあります。
摘出推定が理由で無戸籍を選んだ
無戸籍者の中で約75%が、摘出推定を避けるために必要な戸籍の手続きをせず、親が子供の無戸籍を選んだと言われています。
嫡出子推定とは、妻が妊娠した子供は夫の子と推定される規定です。
離婚後300日以内に生まれた子供は、婚姻中に妊娠したとされる法律があり、「離婚後300日問題」と言われます。
例えば夫と離婚をした女性が離婚後300日以内に別の男性との子供を生んだ場合、その子供の父親は離婚をした元夫であると推定されます。
そのため、出生届の手続きをしてしまうと、婚姻中(結婚している期間)の戸籍に記載されることになり、元夫が戸籍上の父となってしまうのです。
何らかの理由で元夫から子供の出生を隠したいなどの理由から、摘出推定を避けるために手続きをせず、母親がやむなく無戸籍を選ぶケースが多いです。
ただ、2007年の法務省民事局長通達で「離婚後に子供を妊娠したことを医師が証明すれば前夫の子供と扱わない」となっており、無戸籍を回避することができます。
戸籍がない無戸籍者のデメリット
子供の出生後に家庭事情などの理由から、必要な戸籍の手続きがなされず無戸籍者になってしまった場合、どのようなデメリットがあるのでしょう。
戸籍がない無戸籍者というのは、存在しない人物となります。
戸籍は日本人であることを証明する重要な書類なので、無戸籍者であることは日本人として日本で暮らす上で多くのデメリットがあります。
- 銀行口座を作れない
- パスポートが作れない
- 運転免許証が作れない
- 年金を受け取れない
無戸籍のデメリットは多岐にわたります。
身分証明である戸籍がないため、無戸籍者は身元を証明することができず、社会生活上で多くの不利益を被ります。
無戸籍者は日本人としての当たり前の権利がなく、上記のような手続きは全てできません。
今は文科省の通知で無戸籍でも義務教育が受けられたり、一部の公的サービスが受けられますが、無戸籍者のままではデメリットだらけです。
しかし、戸籍がない無戸籍者である場合は、日本国民である証明ができず、日本国民として認められる方法がないので、この権利は与えられません。
無戸籍者が戸籍の取得するための手続き
戸籍がないことはデメリットばかりで、苦労されている無戸籍者は多いでしょう。
ですが、現時点で無戸籍者であっても本人が戸籍を取得することが可能です。
本人が戸籍取得する手続きは、それぞれの都道府県に位置する法務局で行います。
手続き内容は法務省の公式ホームページ「法務省:無戸籍の方が自らを戸籍に記載する為の手続きについて」にも記載されているので参考にしてくださいね。
無戸籍者が戸籍取得する手続きの必要書類
- 無戸籍者が住民票に記載されている場合は住民票の写し
- 母の戸籍、あるいは無戸籍者が出生したときの母の戸籍、あるいは除籍の謄本等
- 母子関係があることを証明する資料
・医師や助産師が発行した出生証明書
・母子健康手帳
・幼稚園や保育園、小学校などの在学証明証
・母子ともに写っている写真
戸籍を取得する手続きの流れ
無戸籍者である本人が手続きする流れは、母の元夫を父としない戸籍の記載を求める場合と、母の元夫を父とする戸籍の記載を求める場合で違います。
①元夫を父としない戸籍の手続き
この手続きは、最終的には母の戸籍に記載されます。
母の元夫を父としない戸籍を取得する手続きは、家庭裁判所にて2つの方法で進めます。
- 血縁上の父に対する強制認知の裁判手続き
血縁上の父へ申し立てをして、強制的に認めさせること - 元夫に対する親子関係不存在確認の裁判手続き
事情により真実の父でないとして手続きを進める
裁判所での手続きが終わると、無戸籍者は市区町村へ「出生事項記載申出書」を提出して手続きが完了します。
②元夫を父とする戸籍の手続き
この場合は元夫の戸籍に記載され、手続きは法務局で行います。
必要な手続きの方法は2種類です。
- 母子関係を証明する資料を提出
- 関係者の聴き取り
その後、無戸籍者は法務局に「出生事項記載申出書」を提出します。
出生事項記載申込書は法務局から市区町村へ送られます。
①②ともに、出生事項記載申込書を提出した後、出生提出義務者(母)のいる場合は、出生届を出すようにとの連絡が母へ2回届きます。
母がいない場合は、市区町村長が戸籍の記載をして手続きを行います。
無国籍者が戸籍を取得するためには、まずは法務局へ問い合わせましょう。
法務局のホームページ「各法務局のホームページ:法務局」から、法務局の場所や無戸籍に関する手続きなどを確認できます。
無戸籍者の親が不明の場合は就籍の手続き
上記のように無戸籍者の戸籍取得の手続きは、認知などの手続きを行うのが一般的ですが、親が不明な場合は就籍の手続きを行います。
就籍によって戸籍が取得できるケースはまだまだ少ないようですが、父母が不明な場合だけでなく、記憶喪失の場合も就籍で戸籍を取得するケースがあります。
他にも就籍は戸籍を自然災害で紛失した場合でも、就籍の手続きで新しく戸籍を作ることができます。
- 手続き場所
本籍地を置きたい場所を管轄する家庭裁判所 - 申立人
・本籍地を有さない者 - 必要書類
・就籍許可の申立書
・日本国民である証明資料
1.申立人の身分証明
(母子の戸籍・住民票)
2.母子関係の証明
(家族写真・出生証明書・卒業証書)
3.就籍が必要な理由の証明資料など
>>無戸籍の方に関する手続き|裁判所
裁判所から就籍の許可が出たら、10日以内に役所に印鑑と許可証(就籍許可審判書謄本)を持参して、備え付けの就籍を提出して手続きが完了です。
無戸籍者が手続きで取得した新しい戸籍の父母欄は空欄となります。
無戸籍のデメリットと戸籍を取得する方法のまとめ
無戸籍者になる理由はいろんな事情がありますが、戸籍がないことはデメリットばかりです。
戸籍の取得は無戸籍である本人が行えますが、手続き方法がいくつかあります。
認知の手続きなのか就籍の手続きなのかなど、状況によってどのような手続きが必要なのか異なるので、戸籍取得の手続きは役所や法務局へ相談しましょう。